以前『古事記』の授業のなかで、イザナギが黄泉の国の穢れを禊したことで、アマテラスとツクヨミ、スサノオが誕生したという話をした。
誕生後、物語はアマテラスやスサノオの話が中心となって展開される。
「もう一人のツクヨミは何してるんだろう?」
学生の素朴な疑問だった。
この素朴な疑問点は実は、河合隼雄が『中空構造日本の深層』
河合先生は、心理療法を学ぶべく海外に留学したが、そこで日本人と西洋人の根本的な心のありようの違いを実感する。
つまり西洋でうまくいくはずの心理療法の技術が、日本人にうまく適応することができない場面になんども出くわすのである。
そこで、日本人の心の深層を明らかにする必要性を痛感し、日本神話の分析を行うようになったという。
先生は、ツクヨミやアメノミナカヌシといった、中心にいるべき存在が全く触れられることなく、無為に扱われていることに着目。
日本の本質的な構造とは、中心がカラッポなことにあるんだ!という主張をしたのである。
確かに日本では、中心にいくと何もないカラッポ空間になっていることが多いかもしれない。
神社についても、中心はカラッポである。
そんな何もないところから、神はどこからともなくまれびとのように出現するのだ。
またロラン・バルトも、東京の中心に存在する皇居を見て、その空虚性を指摘している。(ロラン・バルト『表徴の帝国』
どうやら日本の深層構造はカラッポな中心性にあるといえば、そんな気がするのである。
日本という土地で生まれ育った僕にはなかなか気づかない、中空性のような独特な構造はまだあるかもしれない。
そのへん、タイの若い学生が素朴な疑問として見出してほしいものだ。
そして将来的には、ロラン・バルトのように鋭い日本論を書くタイ人の学生が現れたら、嬉しい限りである。
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