「私は、弓道をしてみたいんだ」
「えー、そうなのー。私もそう思ってたー」
2023年8月か9月頃だったか。新入生ふたりの女の子がそう言って、握手をしていた。
「いいね、弓道。じゃあ、弓道部を作っちゃおうか」
と話に加わった。
ー 弓道 ー
その響きになんとなくピンときたのだ。
さっそく、クラブ設立に向けて動くことにした。
とはいえ、完全にその場のノリ。弓道の知識があるわけではない。とりあえずインターネットで翠山弓具店を見つけ、クラブ設立における必要道具や予算を問い合わせてみた。
また、学生にはタイで唯一の一般者向け弓道会「サイアム弓道会(SKK)」というところに連絡してもらい、糸口を探った。
翠山弓具店からご丁寧に予算のことなどを教えてもらった。翠山弓具店はかつて、他国のクラブ設立のお手伝いをしたことがあるとのことで、非常に心強かった。
周囲は好意的に色々なことを教えてくれた。しかし残念なことに、その時はすでに大学内での新部活の申請期限がすでに過ぎていることが後になって判明した。
こうして、この話はいったん眠った。
2024年6月、新学期が始まった。あれから、いつも心のどこかで弓道のことが引っかかっていた僕は、2年生になったふたりに、まだクラブに興味を持っているかどうかを聞いてみた。
「もちろんです」
積極的な返事を受けた。それから、本格的に弓道部設立にむけて動き出した。
僕とふたりの学生、それと日本研究センターの事務の方4人で「弓道部設立に向けて」というLINEグループを作った。すると、すぐに学生や教員全部で20人以上が加わった。弓道に関心をもつ人の多さに驚いた(まあ一部は、「かっこいい」とか、「袴を履いてみたい」とかの動機で、なんとなくメンバーに入ってみた感は否めないが)。
大学への部活設立申請手続きは、学生と事務の方にお任せした。僕は、道具購入の予算と弓道の先生、および練習場探しに奔走した。
翠山弓具店に改めて連絡し、大体の予算を出した。そして、8月、チェンマイ大学の学生や地域住民に向けた日本文化普及を目的とした弓道部設立プロジェクトとして、国際交流基金に道具購入の助成を申請した。なかなかにいい感触を得た。
場所については、チェンマイ大学内にアーチェリー場があるとともに、体育館やホールなども充実していて、教育機関の強みがあった。
難航したのは、先生探しだった。弓道は危険が伴うので、きちんとした有段者の先生に教わることは絶対条件だった。知り合いに当たってみるも、なかなか見つからなかった。
そこで、在チェンマイ日本国総領事館の方に、弓道部設立構想とともにご相談。ありがたいことに、領事の方も関心を持ち、一緒に探してくださった。
そして、ウボンラーチャターニー県で国際交流基金の日本語パートナーズとして教鞭を執られている先生を見つけてくださった。弓道五段の腕前をお持ちの方だった。
8月、僕はさっそくメールで連絡、zoomでお会いした。
「タイの大学の弓道部設立に関われること、大変嬉しく思います」
とても、ありがたいお言葉をいただいた。
そして10月、先生に実際にチェンマイ大学のアーチェリー場や体育館、記念ホールなどを見ていただいた。
型の反復やゴム弓、巻藁での練習は記念ホールで、実際に射的をする時だけはアーチェリー場を使えばいいのではないかとアドバイスくださった。
そして、今後もチェンマイ大学弓道部の先生として、弓道部に関わってくれることを快諾いただいた。
「弓道は道具も高くて、輸入も簡単ではありません。それに、弓道ができる環境も限られます。やりたい!と思っても、実際のところなかなか難しいものです。それでもここまで漕ぎ着けたのは大したものですよ。学生さんたちも元気でいいですね」
夜に、焼き鳥を食べながら先生はおっしゃった。その日は酒が進んだことは言うまでもない(先生は一口も飲んでいない)。
その頃には、国際交流基金からの道具購入支援が正式に決定された。とてもありがたいことだった。
道具輸入の関税の問題もあって、手続きはなかなかに苦労したが、12月13日、ついに日本研究センターに弓や矢、ゴム弓など一式が届いた。
こうしてチェンマイ大学弓道部(Chiang Mai University Kyudo Club)ができた。冒頭のふたりが弓道部の部長・副部長、ウボンラーチャターニー県の方が先生、僕は部活顧問となった。またチェンマイ在住で弓道経験のある卒業生が、先生の補佐役となってくれた。
正直、その場のノリと思いつきで始めた弓道部。半年ほど、手続きに奔走した。
でも、動き出したことで、なんとか形になった。一つ一つを乗り越えて、仲間ができていくことは楽しかった。「弓道部設立に向けて」というLINEグループ名が、「CMU弓道部」に切り替わった時、なんだか感慨深いものを感じた。
そして年末年始。弓道部は大きな一歩となる活動に加わった。これは、続きとしたい。
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