少し照れくさい「礼!」の声 ー チェンマイ大学弓道部、バンコクのサイアム弓道会との出会い ー



チェンマイ大学弓道部が、タイ国内の大学のなかで初めて創設された。できるまでの過程は前回の記事の通りだ。


とはいえ我々は素人の集まり。まずは、きちんと稽古している様子や弓道環境を実際に見てみたかった。


そこで目に止まったのが、タイ・バンコクで10年以上の歴史を有す弓道会、「サイアム弓道会(SKK)」による特別セミナーだった。12月28日・29日の2日間にわたって、ドイツ弓道連盟名誉会長フェリックス・F・ホフ先生が特別稽古してくれるものだった。


早速SKKに連絡をとり、チェンマイ大学に弓道部が新設されたこと、そして年末のセミナーを数名が見学させてもらうことができるかどうかを尋ねた。SKKは弓道部新設を喜び、セミナー見学も快諾してくれた。


部長・副部長に話をした。

「これはいい機会。僕はセミナーに行ってみようかと思う。行ける学生も、参加してみたほうがいいと思うよ」


「えー、行きたいです。でもバンコクで2日間だと、色々とお金が…」


「ふっふっふ。実は、学部は学生ひとりひとりに対して、こうした校外活動に対する予算をとっているんよ。セミナーとか何かの大会とかに参加する場合、学生は申請できるよ。それでもし学部の審査を通れば、上限5000バーツもらえる。その方法に詳しい先輩がいるから聞いてみな」


「えー、そんな方法があるんですか。それなら行ける人も多いかもしれません。聞いてみます!」

こうして、10人ほどの学生がバンコクに行くことになった。


SKKに特別セミナー参加を正式に申し込んだ。SKKの方はとても親切で、年末のセミナー前にSKK会長らを交えて、zoomでミーティングをしようという提案もしてくださった。チェンマイ大学弓道部からは部長と副部長、そして顧問の僕が参加した。


なぜ弓道部を作ることになったのか。今後、チェンマイ大学弓道部はどのようなことを目指しているのか。セミナーにどのようなことを期待しているのかなどが話された。それに、弓道部に役立つ本や動画、道具などの情報を共有してくれた。


SKKには西洋の方もいたので、タイ語だけでなく、英語も使われた。その中で部長と副部長は頑張って受け答えをした。これはバンコクでも心配ないな、と思った。


そして事実、ふたりはしっかりと準備からセミナー当日まで仕事をした。ホテルや夜行バスの予約、SKKとの連絡もこまめにとった。事前に勉強会やゴム弓を使った練習を行い、その熱量に引っ張られるように、他の学生も真面目に取り組んだ。こうして彼らは学部からの5000バーツもとって、バンコクに向かった。



僕はセミナー当日にバンコクで合流した。心配していた学生の遅刻もなく、彼らは真面目だった。SKKの方達による射的を目の前でみて、感動していた。ホフ先生の英語による指導にも皆積極的に参加した。目を輝かせていたのが印象的だ。


SKKの方達もゴム弓を頑張る学生たちに優しく指導してくれた。弓道はただかっこいいというものではなく、型の反復と精神が重要であることを叩き込んでくれた。弓道に終わりはないことを教えてくれた。





朝から夕方までびっちりと練習した2日間のセミナーの終わりには、SKKの方達とすっかり部員は仲良くなっていた。


「またいつでもSKKにきてね」


「チェンマイに行ったら、弓道を一緒に稽古しようかな」


などと、SKKの方達は言っていた。





僕は2日間を通じて、学生が自主的に、積極的にやっている姿を目の当たりにした。学内だけでは見えない姿だった。学生たちはとても楽しそうだったので、弓道部を設立してよかったと思った。とにかく前進することで、少しずつ得ていくという刺激をもらった。




セミナーを後にする時、部長が言った。


「先生、ホフ先生は稽古の始めと終わりに神前に向かって『礼!』と言ってたじゃないですか。だから、私たちもあれを取り入れたいと思います」


「えー、ちょっと恥ずかしいな」

他の学生が言った。


「いいから、いいから。みんな、ちゃんと円になって」

10人で円陣になった。


「礼!」


部長は大きな声で言った。皆で頭を下げた。SKKの方達は半笑いでその様子を見ていた。ちょっと僕も照れくさかったけど、「学生は元気でいいな、これが初めの一歩だな」と思った。



2日間のセミナーでの学生のひたむきな姿。ホフ先生はどうやらそれをちゃんと見ていてくれたらしい。それから数日後にチェンマイ大学に来ることになるのだ。それはまた続き。


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