「あの、家の中でタンブン(積徳行)をさせていただいてもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
そう快く言ってくれたのは、若い女性だった。
5年ぶりのピーターコーン祭りの人混みは凄まじく、ワット・ポーチャイ寺に入ることもままならなかったので、裏道で行列に向かった。
その途中、ヂャオ・メー・ティアンの家の前にいた女性に話しかけたのだ。
ヂャオ・メー・ティアンとは、地域の女性シャーマンである。
ヂャオ・ポー・グアン(男性シャーマン)と並んで、ダーンサーイ郡の住民の精神的支柱として重要な位置にある。
家の中に入ると、守護霊を祀る神棚があった。
ヂャオ・ポーグアンの家と同じ神棚である。
神棚に、地域の守護霊や先祖霊が祀られている。
ヤギのような動物の頭をつけた薬がおかれていた。
地域の人々に配るのだという。
女性と話をしていたら、1人のおばあさんがきた。
僕は、見覚えがあった。
そう、5年前まではヂャオ・メー・ティアンの立場にいた方だ。
儀礼には必ず、先頭を歩いてらした。
しかしもう、おばあさんの娘さんにヂャオ・メー・ティアンの立場を譲ったのだという。
そして、僕らを家に迎い入れてくれた若い女性は、実は、その今のヂャオ・メー・ティアンの長女なのだ。
そうすると、いずれは彼女がヂャオ・メー・ティアンになるのだろうか?
それとなく聞いてみると、それは何も言えないらしい。
全ては守護霊からの思し召しによるから、答えることはできないのだ。
地域の儀礼集団の、厳格な秩序が垣間見れよう。
かつてはヂャオ・メー・ティアンだったおばあさんが、平穏無事を祈って、サーイシン(聖糸の儀礼)をしてくれた。
手首に聖糸を巻いてもらい、心和み、家を後にしたのであった。
ちなみに、この若い女性。
ピーターコーンの祭りに混ざることはできない。
ピーを統制する側の家にあり、いわば格が違うからだ。
間違って遊ぼうとすると、いつも何らかの怪我をしたりするという。
その日も少しだけ友達が演じるピーターコーンに関わりを持った瞬間に、指を切ったらしい。
ピー。それは決して合理性においては説明できない。
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