未来のピーターコン祭りを担う青年の話。
「今日はこれから何が行われますか?」
水の神招きの儀礼を終えて夜が明けはじめた頃、白い服を身にまとった若干疲れ気味に見えるおっちゃんに聞いてみた。
「あぁ〜今日か〜?今日は〜、そうだなぁ〜。うん、もう何もないな〜。これで終わりだ〜」
心無しか酒のにおい漂うおっちゃんは語った。
…そんなワケがない。
祭りの始まり告げる儀礼を深夜からやったというのに、それでこの後今日一日何も無いなんて考えにくい。
少なくとも去年は違った。
それとも、今年は例外的にそうなのだろうか?
「そんなことないですよ。これからジャオポー・グアン(地域一の人徳者。祭りの中心人物)に対する、バーイシースークワン(魂強化儀礼)があるでしょう」
隣に座っていた、同じく白い服を見にまとった青年が言った。
「あぁ〜?それは明日だろう〜。今日はもう終わりじゃないのか〜?」
あくまでも今日はすべてが終了したことを主張するおっちゃん。
実は寝たいのかもしれない。
「いえ、いえ。そんなことないですよ。バーイシースークワンのあとは、寺への行列もあるし…」
そうおっちゃんに言うと、青年は僕に「酔っているから」と言いたげな笑顔を送った。
「そうかぁ〜」
そう言っておっちゃんは立ち上がり、おぼつかない足取りでどこかに行ってしまった。
祭りの高揚感にまかせて酒を飲み過ぎたようだ。
その後、青年と少し話をした。
「父親が5年前に亡くなり、その跡を継いだんだ」
ピーターコン祭りはジャオポーグアンを中心に、ジャオポーセーンなどの補佐役によって運営される。
その補佐役の父親が亡くなり、跡を継いだのだという。
儀礼集団は、世襲制を貫いているのだ。
「今はまだ見習いの段階。儀礼の時に演奏したりしているんだ。兵隊みたいなもんで、だんだんと序列があがって行くんだよ」
「へー、そうなんだ。じゃあ、いずれはなんらかの儀礼に携わることになるんだね?」
「うん。そうかもしれないね」
青年は少し照れくさそうに笑いながら言った。
笑顔はどこかあどけない。
祭りが行われた3日の間、何度も彼を見かけた。
儀礼の最中、踊るおばちゃん達の後ろで一生懸命鐘を叩いていた。
その姿は、話をしていたときよりもぐっと大人っぽくみえる。
将来、儀礼の担い手になるための修行。
ピーターコン祭りは、彼にとって大きな意味をもっている。
毎年行われる祭りが、人生の通過儀礼のような役割を果たしている。
将来、立派に儀礼を行う彼の姿が楽しみである。
行列のとき、彼は僕のカメラに向って満面の笑顔で手を振った。
やっぱり、その笑顔はまだどこかあどけない。
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