トゥンシームアン寺から歩いて10分ほどの所のトゥンシームアン公園内に、ウボン国立博物館がある。その博物館前にて、ヴェッサンダラ本生話(=布施太子本生話)の一幕を演じる儀礼が行われた。
演じられたのは、国外に追放されて山の森の中で生活しているパ(プラ)ウェートサンドンを、国王が連れ戻しに行くというシーンである。ヴェッサンダラ本生話の、クライマックスシーンだ。
まずは、子供たちのラム(踊り)が行われた。ある女の子がメインで詩吟をしたが、なかなかの歌唱力で、観客をわかせていた。
このときの儀礼の空間は、写真を見ても分かるとおり(見えにくいかもしれないが)、大木のもとに僧侶たちが並び、その前で踊りが行われ、それに対置する形で観客が儀礼を眺めるという構造になっている。
僧侶たち側を聖、観客側を俗とするならば、子供たちの踊りの舞台は、聖なる空間に属すわけだ。
さて、踊りが終わると、プラウェートサンドンが国に戻ってくるように、国王が説得するシーンが演じられる。演じられるといっても、身体的な表現があるのではなく、詠唱のかたちがとられる。
その際には、先ほどの儀礼空間の構造は少し変わる。
さっきまで子供たちが踊っていた空間に、観客全員が並んで着席し、完全に、僧侶と対置するかたちになるのだ。ここにおいて、観客者は、儀礼を構成する参加者へと変わる。
そして僧侶と観客の空間とは少し離れた場所で、プラウェートサンドンを説得するシーンが象徴的に演じられた。
プラウェートサンドンを説得するシーンの演者は6人(うち、子供2人は一切しゃべらないが)。写真では、いすに座っている白い服を着た6人がそうである。(うち、2人は写真では見にくいが)
向かって右側が、プラウェートサンドンとその妻、そして子供たち。反対側が、プラウェートサンドンの父と母、すなわち国王と王妃である。
そして、子供たち以外の4人が、謡によって掛け合いをはじめる。
国王や王妃が、かつてプラウェートサンドンを国外追放の決断を下したことを詫び、どうか国に帰ってきて欲しいと吟じる。
それに対し、プラウェートサンドンは、一度追放となった身なのでそれはできないと拒否する。
こんなやりとりが、しばらく続く。(今回のウボン県でのこのシーンは20分ほどだったが、去年、同じくイサーン地方のシーサケット県のとある村で見たときは、1時間以上あったと記憶している)
しかし、このやりとりの均衡を破るのが、ヴェッサンダラ本生話の物語における民たちの声を模倣する、観客(儀礼参加者)の声だ。
観客たちはいっせいに、「プラウェートサンドン王子、国に戻ってきて下さい」と声を上げるのである。
そんな観客、すなわち民の声を受けて、プラウェートサンドンは、国に戻ることを承諾。それによって皆、大いに喜び、僧侶を中心に全員で読経をして、ヴェッサンダラ本生話の説得のシーンは終わった。
これにて、プラウェートサンドンは、自国(ここではトゥンシームアン寺)へと帰ることになった。行列をなして、街中、(あるいは村中)を練り歩いて戻るのである。
その模様は、次で紹介したい。
<ウェとサンドンの帰国を願う儀礼の演者たち。右からプラウェートサンドンの妻、国王、プラウェートサンドンの子供たち、プラウェートサンドンである。余談だが、プラウェートサンドンの妻を演じるおばちゃんが、妙に写真にうるさくて、足をちゃんと入れろ、入れろとしつこかった。これには閉口した。ま、まったくの余談だ>
応援のほど、よろしくお願いいたします
0 コメント:
コメントを投稿