朝、6時半過ぎ。
机の上から、携帯電話のバイブ音が聞こえる。
こんな時間に誰だよ、と思いながらベットから机に向かい、受話器をとる。
「何やっているんだよ。今どこだ?何時頃、来れる?」
野太い、しゃがれたおっちゃんの声が聞こえた。周りもガヤガヤと騒がしい。
今どこって、家に決まってるだろう、という気持ちを抑えつつ、
「僕が行くのですか?何か勘違いしてません?」
と冷静に答えた。
「はぁ?」
いや、いや。確かに僕の発音が悪いのは分かるが、朝っぱらからタイ人の「はぁ?」という声にはさすがにイラッとする。
「だから、おっちゃん。間違い電話でしょう」
「何?もうちょっと大きい声でしゃべってくれ。周りが騒がしくて聞こえないんだ」
ここで、切ってしまえばよかったのだが、そんな思考は働かなかった。
ましてや、「じゃあ、7時半に向かうから、いつものところで待っててくれ」などと適当に約束をしてしまう、気のきいたことは思いつきもしなかった。
あくまでも真面目に返答してしまう、気の弱い僕だ。
「だから、間違い電話です」
「何言ってるんだ。~だろう?」
「いや、僕は~ではあり・・・」
途中まで言いかけたとき周りの喧騒が増した。そこで気づいた。もしかしたら、このおっちゃん。赤服が待機している会場にいるのではなかろうか。
すると、おっちゃんは、
「ちょっと何言ってるかわからないから、また後で電話するわ」
と言って、有無を言わさずにガチャリと電話を切った。
僕は腹立たしさですっかり目が覚め、しばし途方にくれた。
朝っぱらから間違い電話で起こされ、一方的に切られたこの気持ち。
いったい、どこにぶつければいいのだろうか・・・。
今、タクシン派の赤服は、バンコクの中心地ををデモして回っている。ニュースではその様子を刻々と伝えている。
あれから、おっちゃんからの電話はない。きっと、このデモ行進で忙しいのだろう。(あのおっちゃんが本当に赤服の人間ならば、だが。ま、僕はそう確信しているけど)
この中に、僕に電話した人間が混ざり、笑いながらデモ行進しているかと思うと、なんともやりきれない。
応援のほど、よろしくお願いいたします
0 コメント:
コメントを投稿