タイ・バンコクの小道と、タイの匂い。

タイ・バンコクの道は、よく魚の背骨にたとえられる。太い道路を中心にして、ソイと呼ばれる小道が横に延びるのだ。その小道は大概、行き止まりになる。

だから、バンコクには裏道がない。タイに住んで4年以上が経つので、そんなことは知っているはずだが、通り抜けできそうな小道を見つけると、今でもついつい入り込んでしまう。

昨日もそうだ。



なかなか閑静な住宅街が続く夜の小道をズンズン進んでいって、10分。結局行き止まりになった。


突き進むだけ突き進んで、結局通り抜けできなかったときの、戻りの道の切なさといったらない。

しかも、行くときに顔を合わせた地域住民と、戻りの道でまた会ったりすると、「こいつ行き止まりで戻ってきたな」と陰で笑ってはいないかと、気の小さい僕はハラハラする。

でも昨日は、小道を引き返しているときに、行くときには気づかなかったが、どこかの家で植えられていると思われる花らしき匂いを感じた。

すると、なぜか鮮明に高校時代の帰り道が浮かぶ。吉祥寺付近の帰り道の感じがアリアリとだ。実際にはそこでその匂いをかいだわけじゃないのかもしれないが、でもそんなイメージが鮮明に浮かぶ。

人間の脳は不思議だ。匂いが、ここまで鮮明なイメージをつくる。

タイにはタイの匂いがある。

初めてタイに来たときにインプットされた匂いを、今でもたまに感じることがある。僕にとってのタイの匂いは、道端でふとしたときに感じる、タイの灼熱の太陽の光をいっぱい浴びた洗濯物とシャンプーが混ざり合ったような匂いなんだが、あれを今でもたまに感じる。ワクワクする反面、切なくもなる。

それは、そのときにはもう二度と戻れないことを、かなり深く実感してしまうから。

昨日に関しても、高校のときにはもう二度と戻れないことを深く実感した。”確実に”戻ることができないと思っちゃうわけだ。

普段は、心の深層で、なんだかんだいったって、どこか当時に戻れると思っている節があるのかもしれない。だから、確実に戻れないことを実感すると、すごく切なくなる。

ま、とはいえ、実際のところ過去に戻りたいなんて思ってはいないんだけど。

タイはこれから、どんどん暑くなる。

昨日の時点では、まだ、夜風が涼しい。

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