朝9時から1時間半にわたって、オンライン授業の問題点やこれからの取り組み方など、幅広いQ&Aウェビナー(webinar:ウェブ上のセミナー)が、チェンマイ大学・学長室から発信された。
学長から直接話を聞けるとあって、参加教員は400人以上。
学長は、「新型コロナウイルスによって、生活様式は大きく変化し、教育のあり方も変わる。教員も授業方法だけでなく、根本的な部分から問い直される時にきている」といった認識で、次の点を明らかにした。
・チェンマイの新規感染者は長らくない。来年度前期(7月開始予定)には、教室で授業ができるかもしれないが、それでもオンライン授業の準備は必須。教員は、教室とオンライン双方に対応できるようにしなければならない。
・教室で授業ができるようになったとしても、オンライン授業で実施することは可能。教員しだいである。
・オンライン授業での評価方法は、Thai Qualifications Framework for Higher Educationで教員が規定した learning outcomes に沿っていれば、教員しだいである。
・オンライン授業とこれまでの教室授業、教員の仕事負担時間量は同じとする。すでにチェンマイ大学医学部の一部では、昨年度よりオンライン授業を実施しており、これにしたがっている。
・オンラインでいかに教育の質を保つかが課題。教員は、講義のやり方そのものを問い直さなくてはならない。中国などの他国の大学教育のあり方も参考にしながら、手探りで行い、情報共有をはかるべきである。
・これまで教室授業では見えなかった部分がオンライン授業でクリアになる可能性もある。例えば学生の課題への取り組みは、教室よりもオンライン上でデータを見ながらの方がより鮮明に見える可能性もある。
・大学のスケジュールは新しいものとなり、情報更新は随時webやメールにて確認できる。
・オンラインでのテストにおける不正行為対策としては、Safe Exam BrowserとRemote Proctoringを用いる。
・教員の研究進展について、新型コロナウイルスの影響が出た場合は、理由を明記して大学に伝えること。
・学生のインターンシップについては、他教科や違う学習において変更させることも可能。実習先におけるコロナウイルスの影響も含めて、検討されるべきである。
・教員は、社会的距離や手洗いなどの実践を重視。チェンマイのこれまでの取り組みや協力の仕方、実績をみると新型コロナウイルスのSecond Waveがあったとしても対応できると確信している。
・来年度前期の開始前の学生との顔合わせは、ウェブのクラスルームなど使用予定。方法は5・6月の間に改めて知らせる。
・学生への支援対策
①3ヶ月フリーのSIMカード提供(Dtac、AISなど、選択可)
②タブレットやノートブックを利子0、特別価格で提供可能。
③ノートブックの貸し出し可能。
④ITSCの1000台のコンピューター利用可能。
⑤オンラインショッピングも大学内で提供。
・教員への支援対策
①ズームのプロ・ライセンス3000人分配布。
②オンライン授業用のスタジオ使用可。
③学部ごとにもeasy studio(カメラやマイクなどの機材を簡易装備した部屋)を用意、使用可。
・障がい者への支援対策
①歩行困難などの学生については、オンラインにおいても問題はないと考えられる。
②目や耳の不自由な学生はオンラインにおける影響がどのくらいあるかはまだわからないが、専用の部屋を用意・使用可としたり、あるいは学生バディをつけたりするなどして対応予定。
以上が、学長室から発せられた方針であった。
授業やテストのあり方、そして学生・教員への支援など幅広く考えられていて、勉強になった。
チェンマイ大学でオンライン授業になったのは3月から。
オンライン授業の技術面で、対応しきれていない先生もなかにはいる。
でも見渡してみれば、割とスムーズに移行しているのではないか、というのが僕の印象だ。
つまり、オンライン授業の技術じたいは、そんなに難しい話ではない。
やはり問題は、オンラインで教育の質をどう保つかの方である。
これは、本気で考えないといけないと思う。
3月と4月、僕はオンライン授業をやってみて、これまでのやり方ではあまり面白くないと実感した。
小学校で勉強をはじめてから30年以上かけて僕の体に染み込んだ、教育の「なんとなくの」あり方や、教育目的そのものを、自分の中で問いなおす段階にきたと思った。
これまで教室での僕は講義を進めつつ、途中途中に学生に問題提起をして、それについて学生と一緒に考えるというやり方をしてきた。
なるべく相互方向的な講義を心がけたつもりだ。
しかしオンライン授業になると、同じ空間に顔を付き合わすことでできた相互方向性や空気感の確保が難しくなる。
かなり意識して新しい講義システムを作らないと、一方通行的になって、学生はただボーと部屋で聞いているだけになる。
そうすると、一部の学生たちだけが対話し、他の学生はそれを見守るという状況になってしまう。
それでは良くないし、面白くない。
もっとテクノロジーを利用して、教員も学生も皆で影響しあえるオンライン上の「場づくり」を、教員はしないといけない。
「場づくり」だけでない。
教員は、教育そのものと向き合い、教育の目的を問い直し、各自明確にしなくてはならないと思う。
今までの教育現場では、教員も学生も、勉強の仕方・姿勢について、根本的な部分では疑われれることがなかった。
先生が教室に入ってきて、学生が席について、授業が始まる。
先生が口を開き、学生はそれを聞き、書き取る。
一定の時間がたつと、授業が終わり、先生は教室をさっていく…。
こんな当たり前の光景。
教室という同じ空間にいるので、学生に教員の声はいちおう届き、授業は成立した。
しかしオンラインでは、それが通じない。
学生は教員の声を聞きながしながら、部屋で家事をしたって別にいい状況なのだ。
「そんなのGoogleに聞けばいいよ」
「そんなの本にのってるでしょ」
こう思われたら、授業は成り立たない。
つまり教員は、教育の仕方を考えなくてはいけない。
学生にどんな目的で授業をするのかを明確にしなくてはならない。
きっと、学生に知識を詰め込んだりはめ込んだりするというこれまでの教育にあった目的は、第一にはならないだろう。
国や会社のための人材づくりに向けて、均一的な学生を育てようとする教育のありかたは、大きく後退するわけだ。
これからは逆に、学生が人とは違う発想やものの見方ができること。
このために教育が行われるべきだと思う。
Googleで調べるだけではわからないような考え方を、教員が示すこと。
それで学生のものの見方を拡張させて、われわれ大人たちには思いも寄らないような新しい発想ができる人物になる手助けをすること。
これを目的とするならば、教員は学生との相互方向的な場で、いかに学生の考え方に揺さぶりを与えるカウンターパンチを出すことができるかが求められると思うのである。(教員は日々勉強しなくてはいけないなあ…)
コロナによって、これまでの教育の仕方、さらには教育そのものについて、否が応でも問い直しが迫られる。
これまで教員たちが漠然と感じ、変だと思っていたような教育の抱える問題点が、表面化してくるとも言い換えられる。
このこもりの期間、これからの教育をイメージし、授業を再構築させること。
そうしないと、コロナ後の世界に対応できないと痛感している。(…し、実は新しいことができることでワクワクもしている)
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