「ロッブリーまで、1人」
「はいよ」
そう言って、チケットが渡された。
「日本人です。ただじゃないんじゃないですか?」
「ああ。そうか。じゃ、28バーツ」
僕の顔をちらりと見て、チケット売り場のおっちゃんは言った。
買ったのは、バンコク発16時30分、ロッブリー着20時予定の電車のチケット。
先週の土曜日のことである。
バンコクの電車の窓口、ファランポーン駅。
ここは、何度来ても心が騒ぐ。
もちろん、駅の建物自体も赴き深い。
そしてなにより、駅をとりまく自分の思い出がいろいろと蘇る。
大学生だった頃に、ここからカンボジアへ行き来したことなんか、遠い昔のような気もするが、最近のような気もする。
友人と疲れきってファランポーンに戻り、そして駅で食べたカツカレーは忘れられない。
うん?いや、うどんだったか?
あれ?どうやら忘れかけているようだ。
今度、友人に聞いてみよう。
まあ、いずれにしても、あれからも、何度もこの駅に来た。
そのたびに、なんだか感慨深い気分になるものだ。
さて、16時30分。電車はロッブリーに向けて出発した。
夕暮れの町並みをみて帰るために、北上する電車の進行方向左側の席に座る。
で、思惑通り、18時前くらいから、夕日の町を電車は駆け抜ける。
ちょうどアユタヤー付近である。
夕焼けに染まる町並みは美しい。
「なんだか、空だけでなくすべてがオレンジ色に輝いているな」
なんて、ちょっと呟いてみたら、実際全てがそうだった。
洪水である。
アユタヤー付近は、洪水が始まっているのだ。
水面の鏡に町が、空が映りこんでいるのだ。
こちらの映像をご覧頂いても、その様子はうかがえるであろう。
それにしても…
皮肉にも美しい。
この付近の田んぼは全滅してるだろうし、生活もさぞ大変だろう。
でも、人間の生活を飲み込む自然の脅威も、時に美しくみえることがあり、なんとも切ない。
そんなことを思っていたら、日が沈んで真っ暗になった。
それからである。
僕も洪水の大変さの一端を知る。
おそらく洪水のためだろう。
蚊が大量発生していたのだ。
暗闇を電気をつけて疾走する窓全開の電車に、どっさりと入ってくる蚊の大群。
周期をおいてどさっとくるその数、一回につき10〜20匹。
そこからは、乗客全員、蚊との戦いである。
テケテッテンテッテケッテッテン…というドリフ的な音楽が聞こえてきそうなほどに、てんやわんやの車中。
あちこちで、パチっという音が聞こえる。
日が暮れてからロッブリーに着くまでの1時間強。
嫌というほど、洪水の大変さを知った。
もちろん、洪水被害をもろに受けている人の苦労は、こんなもんじゃないだろうと思う。
本当に気の毒だ。
お気に入りの白いズボンが蚊で汚れたくらいで、しょげてちゃいけない。
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ほんと、洪水地域に住んでる方に申し訳ない程美しいですね。
返信削除ファランポーン駅雰囲気が好きだなぁ~。
私はコーンケンまで行きましたが駅員さんに1等席はどうだ?
と勧められても、いいや3等席!と言い張り、おかげで乗り合せた
地元タイ人の人達とすごくいい思い出ができました。あとで1等席を
覗いてみたら殆ど白人の人達でした。面白くねーー。
ファランポーンいいですよね〜。
返信削除僕も大好きです。
思い出も多いし。
ま、友人からすぐにTwitterで、「カツカレーでもうどんでもない。カツ丼だ!」と訂正がきましたが…笑
3等席いいですね。僕も、この前乗ったのは3等席。おかげで、蚊の大群に悩まされましたが、まあいい経験です。
それにしても、「面白くねーー」って面白いですね。
ナーンです。
返信削除いやあ~動画見させてもらいました。
タイでの車窓が切なく見えました。
今年も洪水ですか・・・毎年タイのどこかしかで被害がありますね。
そうですか、蚊が大量に発生するんですね、そりゃあたまりませんね。
写真が本当にいいですね。
そのときの感じを切り取るのが上手いと思います。
駅らしいとこで佇んでいる人と夕焼け、いいですね~。
ナーンさん
返信削除いつもながら洪水は大変ですね。でも最近は雨がほとんど降らず、だいぶ水もひいたようなので、一安心です。
とはいえ、いま、超大型の台風が迫ってくる可能性があると聞いてます。
自然の脅威はやはりすごいですね。