これは、ビエンチャンから、ラオス南部サワンナケートへのバスでのはなし。
ビエンチャンからルアンパバーンまでのバスは山間部を抜ける悪路で、しかも座席が異常に狭く、おかげで隣の中華系ラオス人との静かな格闘があったことは以前ブログで紹介した通りだ。
ということで、南部スワンナケートへの出発に向けて、「今回こそは!」と意気込む。
意気揚々と、宿の近くにあったゲストハウス兼旅行会社に向かう。
店番をしていた兄ちゃんが、ボーと外を眺めて座っていた。
「サワンナケートに行きたいんだけど。VIPある?」
「普通のVIPと、寝台のVIPがあるよ」
値段は大体700バーツほどで、寝台のほうが少し高めだった。
「どちらでもいいけど、今日の夜、空きはあるの?」
すぐにバス会社に電話して調べる、ゲストハウスの兄ちゃん。
「寝ていくタイプしかないわ。それでもいい?」
寝ていくタイプ・・・
僕は、椅子が180度とまではいかなくても、150度くらいまで傾くタイプを想像した。
悪くない。いや、むしろいいじゃないか。
「いいよ。じゃあ、それを一枚」
20時発のサワンナケート行きバス。無事、予約を済ました。
「ところで、ラオス南部に向かう長距離バスのターミナルは、市内からけっこう離れているみたいだけど、ソンテウなんかで行くと、いくらかかる?」
「大丈夫、大丈夫。このゲストハウスの前に19時に来てくれれば、迎えが来るよ。もちろんフリーさ」
「おお、そいつはいい」
フリーの迎えがついて、150度、いやもしかしたら180度の傾きを可能とするシートに座って、南部スワンナケートの街へ向かう。
最高だ。
19時。
ゲストハウスの前で僕は、ぽつんとソンテウを待っていた。
朝、チケットを買ったときとは違う兄ちゃんが、ゲストハウスの店番をしていた。
でも、朝の兄ちゃんと同じように、ボーと外を眺めていた。
19時半。
まるっきりソンテウが来る気配はない。
「大丈夫か?確か20時発の長距離バスだが・・・」
「大丈夫、大丈夫。ぐるっと市内を回ってるから遅れてるんだろう。きっとここが迎え最後の地点さ」
19時45分。
プップー。こだまするクラクションの音。
兄ちゃんは僕のほうを見て、にやりと笑った。「どうだ」と言わんばかりに。
ソンテウに乗り込むと、西洋人の先客が3人いた。何故か幌を締め切っていて、風がまったく通らず、むし暑い。
それから市内をぐるぐると回りはじめた。
「どこが、最後だ。むしろ、最初ではないか」
市内をぐるぐる回っている段階で、20時はとっくに過ぎている。
乗り込んでくる、乗り込んでくる、西洋人。
体もさることながら、荷物もまた皆一様に巨大だ。
座る場所もままならない。足元は巨大なリュックの山。
それにしても、暑い。
20時15分。
ソンテウがやっと市内を抜けて、バス停に向かい始めたときには、狭いソンテウに十数人の西洋人と1人の日本人が詰め込まれていた。
風はまったく通らず、暑かった。
20時半。
ようやく、ソンテウは、バス停に到着した。
ここへ来て、なぜかそれまで涼しい顔をしていた運転手が突然焦りをみせる。
「早くバスに乗り込め!」
”お前ら、何をだらだらしていたんだ。時間はとうに過ぎてるんだぞ”と言わんばかりだ。
まったく意味が分からない。
慌しくバスへと向かわされる西洋人。しかし、僕だけ何故か待たされる。
「お前のバスは違う。こっちだ」
おっちゃんが先導する。
どうやら、寝ていくタイプのVIPに乗り込むのは僕だけだったようだ。
ほかの西洋人はタイのVIPバスになんら劣ることの無い、素敵なバスへと吸い込まれていった。
あの素敵なVIPよりも値の張る、寝ていくタイプのVIP。
期待が高まる。
「これだ」
おっちゃんが指差したバス。
フロントガラスが尋常ではないほど、ひび割れている。
明らかに事故した跡だ。
これから乗ろうというバスのフロントガラスのひび割れは、いやがうえにも恐怖感をあおる。
中に入る。
運転手が、”遅いぞ”的な目で僕をぎょろりと見つめた。いや、僕のせいで遅れた訳では・・・と思った矢先おっちゃんは言い放つ。
「靴を脱いで」
「へ?」
バスに乗るのに靴を脱ぐなんて・・・・いつまでも新車のシートをはずさず、靴も脱いで乗るという性格をむき出しにしたバス運転手なのか?
しかし、中を見て合点がいった。
二段ベッドが所狭しと並ぶ、いわばそこは宿舎なのだ。
宿舎に靴を履いて入るものはいないだろう。
「凄いことになっているな」と思いつつ、僕はそそくさと靴を脱いで、自分のベッドを探した。
一番後ろまで行くが、どこも人が寝ている。
???
「これどこ?」
チケットを運転手に見せる。
運転手が指差した先のベッド。
ラオスのおっちゃんが寝ている。そして、なぜか僕を見て、にやりとした。
「いや、いや、まさかこの狭いベッドで2人で寝るのか・・・」
どうやら、僕の寝ていくVIPバスの予想は大きくはずれたようだった。
見知らぬおっちゃんとあんなにも密接して眠るのは、生まれて初めての経験だった。
そして、これから先もそうは無いはずだろう。
8時間のバス移動の中で感じたあのおっちゃんのぬくもりを思い出すたびに、そう願う僕である。


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とても魅力的な記事でした。
返信削除また遊びに来ます!!
ありがとうございます!
返信削除ごめんなさい。返事が遅れてしまいまして…