今村仁司『近代の思想構造 世界像・時間意識・労働』人文書院・1998年
目次を見ても分かるが、本書では、「近代」を構成する様々な特質が取り上げられている。そして、その特質から構成される思想の体質を「近代の思想構造」として分析されているのだ。
氏は、近代とは労働の時代であり、近代社会とは労働社会であるとする。そして近代は、17世紀の絶対王政期以降から始まり、その後200年周期で変遷しているとする。つまり近代は、
①絶対王政、重商主義の17・18世紀(帝国の崩壊と近代国民国家の形成期)
②フランス革命~現在の19・20世紀(産業資本主義、ブルジョアジー覇権期)
③これから
と区分され、①から②への変遷の過程で、生産主義的な精神構造が構築されるということを、ヘーゲルやマルクス、ウェーバー、ハイデガーなどの諸思想家を持ち出して、説明している。
③のこれからの近代には、ポストモダンの議論をもとに、能動的ニヒリズムをキーにすることが述べられていたが、あまり自分の中でスッと入ってこなかったので割愛。
共感したのは、本書で扱う「思想」は、いわゆる僕たちが「思想」と聞いてイメージするような、理論的に表現される思想のみならず、人々のなかで当たり前になってしまって「倫理的雰囲気」になってしまっているような思想も包括されているということである。
それは今村氏が、諸時代に生きる頭の良い思想家たちの諸思想もさることながら、実のところ、諸時代の諸社会の中で人々が無意識の間に駆動させているような思想こそが重要であり、着目すべきではないかという問題意識をもっているからといえる。
その点は、僕も同意見だ。特に現在のように、web2.0の集合知が重要性を帯び、専門家や知識人の考え方や思想が相対化されている状況からしても、今村氏の視点は歴史を見るにおいて必要とされるであろう。
まぁ、そうした視点は、たとえば民衆思想への着目という点からすると、日本では色川大吉氏や鹿野政直氏、安丸良夫氏などによる民衆思想史研究があって、その歴史はそれなりに長いのだけども・・・。
本書の目次は次のとおり。参考までに。
〈プロローグ〉
Ⅰ近代とは何か
はじめに
1近代性の構造
1自己との関係(対自関係)/2他人との関係(対他関係)/
3自然と人間との関係/4時間の意識/5機械論的世界像
2近代の世界像とその批判
Ⅱ「考える」とはどういうことか
はじめに
1 ヘーゲルとビルドゥング
2 マルクスと「ヘパイストスのハンマー」
3 ニーチェと「ハンマーで考える」
4 ベンヤミンと目覚めること
5 現象学と「エポケー」
6 驚きと思考
第一章 機械としての世界=機械状組織
1 機械的心性の形成 51
科学革命と近代哲学/社会的要因
2 機械‐組織
近代国家/ホッブズとアダム・スミス
3 管理する機械
近代のデーモン/社会管理機械/企業管理機械
4 技術と人間の関係
フリードマンの研究/フリードマンとハイデガー/主人と奴隷
第二章 支配の方法=主人と奴隷
1 方法的精神を要求するもの
二重革命
2 自然の征服
ベーコンの方法論/デカルトの方法
3 主と奴
自己意識/欲望/主と奴
4 呪術からの解放
オデュセウスとセイレーンとの対決/世界の二重性
5 世界実験/世界経験
世界実験/世界経験
第三章 交通としての社会=市民社会
はじめに
1 政治の構築
暴力的死からの脱出/虚栄心/理性の要請/社会契約論
2 欲望による「経済」の構築 115
ヒュームの国家論/国家の市民社会化/欲望による経済の構築
3「法」による「人格」の構成 125
目的の国/快感原則と禁欲のエートス
第四章 労働と倫理と労働社会の到来
1 労働の突出と優位
労働表象の転換/労働の突出
2 禁欲倫理の成立
西欧近代/キリスト教の禁欲倫理/世俗内禁欲/自己規律(自己審査)/
形式としての労働
3 方法的ニヒリズム
二つの方法主義/理性の禁欲主義/欲望と芸術の否認/ニヒリズム/人間の死
4 法と契約
約束と忘却/刑罰/自己規律と自己立法の起源/自己犠牲/
自律と他律/欲望と暴力
第五章 近代の時間意識=企てる精神
はじめに
1 先取る意識
伝統の拘束/商業と未来の先取り/教会の時間と商人の時間/
時間の計測/鐘と時計
2 企画
モダンの意識の芽生え/巨人と小人/進歩の意識/企てと未来
意識/認識/道徳/企てとしての道徳
3 企業
企業の精神/既成軌道の打破/異物としての企業家
4 企てる精神の効果 187
ユートピア/革命/全体主義的管理
〈エピローグ〉
モダンの横断
1 エポックとしての近代
ポストモダン論議について/三つの近代/予兆としての六八年
/近代の再記述/トランスモダンの先駆
2 雑種の精神
3 貨幣について
4 セクシュアリティについて
5 追憶と追悼
6 歴史の終焉について
7 人生の日曜日
8 空間の再発見
9 技術時代と遊戯の精神
10ニヒリズムとシュールユマソ
あとがき
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