「お前、なんで紙製なんだ?…ちょっと横に停まってもらっていいか?」
夜道、車を走らせていると、タイの警察官の検問にひっかかった。
地方の国道ではときおり検問が行われているが、こうして車を完全に停車して調べられるのは初めてである。
特に悪いことをしていないのに妙に緊張する。
車は4人ほどの警察官に囲まれた。
「なんで紙製なんだ?」
さっきとは違う警察官が窓のところにきて、僕に光を照らしながら同じ質問をしてきた。
彼らが言う紙製…
それはナンバープレートのことである。
写真の通り、今借りている車のナンバープレートがなぜか紙製なのだ。
もう水までしみこんでしまっている。
これはレンタカーがまだ新車でプレートが追っ付かなかったからだと、事前にレンタカー屋に説明されていた。
だが正直、警察じゃなくとも疑いたくなるような紙製のナンバープレート。
店で見たとき僕は半笑いだったが、「まぁタイではこういうこともよくあるんだな」くらいに思っていた。
しかし、実際は相当の珍しさのようで、今こうして警察官たちから疑惑の目が向けられているのである。
複数の警察官に囲まれる緊張感。
「すみません…実はその…盗んだ車なんです。その辺でコピーを取って…ナンバープレート代わりにしてました…」
なんて至極ネガティブな嘘が口から出そうだ。
あるいは、「この辺で殺人事件があって検問中だ」なんて言われようものなら、「ああ、それ実は僕です」って答えてしまいそう。
それほどに僕は繊細なのだ。
そんな意味不明な衝動をこらえて僕は、レンタカー屋からもらっていたナンバープレートの登録書を警察官に渡し説明した。
「車はレンタカーです。店の人にプレートに関して警察官に質問されるようなことがあったらこれを見せろと言われました。現在、登録中のようです」
4人のうちリーダーっぽい風格を備えたおっちゃんが目を通している。
「車の中を見ていいかい?」
他の1人が僕に尋ねた。
「どうぞ」
バーンと広げたバカでかい地図やカメラ、食べかけのお菓子や水が散乱した後部座席におっちゃんは光を当てた。
そしてちらりと見て、すぐに調べるのをやめた。
それはあまりにもすぐだった。
ひどく雑然とした後部座席をみて、調べることに嫌気がさしたんだろうか。
確かにそこには犯罪とはほど遠い、変な生活感みたいなものが漂っていたのは否めない。
「なんだかわからないけど、とりあえずIDカード見せてくれ」
登録書に目を通していたリーダーに言われた。
「パスポートでもいいですか?」
「パスポート?お前タイ人じゃないのか?」
「ええ、日本人です」
「なんでタイ語喋ってるんだ?」
「昔住んでいたものですから」
…
そこから一転。
雰囲気はもうアットホームそのものである。
なぜタイに住んでいたのか、どんなことを研究しているのか、日本と比べてどうか…
彼らの好奇心だけが検問を支えていた。
「いや〜時間をとらせて悪かったな。気をつけて行くんだぞ」
敬礼をしながらリーダーは言った。
「どうも」
車を走り出してすぐ、僕はフーと大きく息を吐いた。
何もしてないのにこの緊張感。
実際になにかをしていたらどうなってしまうんだろう。
悪いことはできないもんである。
それにしても紙製のナンバープレートはあと数日続く。
またいつ検問されることになるのか、今も妙に重い気持ちを抱えていることは否めない。
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ウケるーー。(笑)
返信削除もし同乗していたらRyotaさんが妙な緊張感に包まれているにも
かかわらず、半笑いになりそうなのを必死でこらえているかも
しれないです(意地悪ですね、私)。
まー、何事もなくてよかったですね。
phimaiさんが半笑いになったら、僕も緊張を通り越して笑い始めるかもしれませんよ。笑 日本人2人妙ににやけてたら、警察もかなり怪しむでしょうね〜。
返信削除とりあえず、何事も無かったのですが、今も警察官とすれ違うたび、ドキドキです!