「いつでも、帰って来いよ」
僕の言葉に、2人は涙で真っ赤になった目でニコリと笑った。
精一杯の笑顔だったように思う。
僕は、上手に笑うことができなかった。
2人は、新2年生になったばかりの双子。
でも、顔も性格もまったく似てなかった。
お姉さんは極めて無口で、あまり感情を表に出さなかった。
しかし、勉強は学年でトップだった。
綺麗に日本語を書いて、ほとんどの試験で満点近くとっていたのが印象的だ。
妹のほうはお姉さんに比べて、よく喋った。
字は、本当に双子?と思うほど、違った。
筆圧が強くて乱雑というか、芸術的というか、なんとも独特だった。
芸術的といえば、妹は絵がものすごく上手で、暇さえあれば絵を描いていた。
成績は学年で、お姉さんに次ぐ2位だった。
そんな双子のお母さんから、学科に連絡が入ったのは先週のことである。
「すみませんがもう、大学をやめさせます。子供達には仕事をしてもらうんです」
突然の連絡に、学科はショックをうけた。
今日、2人が退学の手続きのために学科へきた。
家庭のどうしようもない事情。
母親1人で、老人を含めた7人の家族を養っているらしく、2人はこれ以上母親に負担をかけることができないという。
上司は奨学金などの案も出したが、本人達はもう決めたことのようだった。
お姉さんは勉強が大好きだった。
妹は芸術にもっとふれたかった。
「でも、もう、これ以上勉強することはできない」と、泣いた。
なんともやりきれなかった。
上司と僕も涙を我慢することができなかった。
今、学校は新学期が始まり、新入生歓迎会「ラップノーン」が行われている。
そんな中での突然のお別れ。
冒頭の言葉くらいしかかけてやれなかったし、上手に笑えなかったけど、あの時の2人の笑顔は忘れない。
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今の日本の学生じゃあまり聞かれない、どうしようもない家庭の事情で
返信削除学校を辞めなければならない学生さんがタイには身近に居らっしゃるんですね。
本人達は勉強したいのに・・・私まで心がもやもやと何とも言えない気持ちになります。
でもね、きっと彼女達は回り道になっても自分の夢を叶えると思います!
どんな経験も無駄なことなんてないですから。
そうですね。彼女達ならきっと頑張って、素敵な未来をつかむと思います。
返信削除昨日、「先生、ありがとうございます」というメッセージがきていまして…
それもまた、悲しかったんですが、でも、学科の弟子なんだから何かあったらいつでも顔出せよ!とだけ、伝えました。