「おー、了太先生。久しぶり。時間あるか?今、田辺先生と食事をしてるから、時間があれば来てよ。店は…」

卓越した研究成果と、俳優顔負けのルックスをもってして、「Mr.チェンマイ大」と言われたアタチャック名誉教授から、突然お電話をいただいた。

田辺繁治 名誉教授の最終講義・セミナーを明日に控えての夜だった。
「セミナー前夜に、たくさんの先生方で集まっているのかな」と思いながら、すぐに店に伺った。

指定された店は、割と年季の入った店。フォークソングを歌っている人がいた。

「おーい、こっちこっち」
アタチャック先生が手を降った。
久しぶりにお会いしたが、昔と変わらず、相変わらずのダンディさだ。

食事をしていたのは、アタチャック先生の他に田辺先生、そしてバンコクのチュラロンコーン大学名誉教授スリチャイ先生の3名だった。
はっきり言って、レジェンドすぎるメンツ。そんな場に呼ばれて、恐縮だ。

スリチャイ先生は、田辺先生の最終講義・セミナーでのコメンテーターだったので、バンコクからお越しになっていた。
「はじめまして、スリチャイです」
先生は、おっしゃった。

しかしスリチャイ先生は、僕がバンコクに留学していた時のアドバイザーだった方。
20年ぶりくらいの再会だった。

スリチャイ先生はとても驚かれていた。
そう言われてみれば、「若曽根」という名前は珍しいから、なんとなく記憶にあるとのことだった。
久しぶりの再会を、スリチャイ先生はとても喜んでくださった。

皆で、色々なことを話した。
スリチャイ先生もアタチャック先生も、楽しそうに酔っ払っていた。
昔のこと、これからの研究のこと、田辺先生に語っていた。
僕にもいっぱい聞かせてくれた。

田辺先生の最終講義・本帰国を前にして、このようにかつての研究仲間が集まる機会は、これからそう簡単にはあるものではないだろう。
皆、そのことを重々承知の上で、たくさん話をして、たくさん笑っていた。

僕はそんな場にいれたこと、恐縮ではあったが、とてもありがたかった。

皆で、写真を撮った。



研究者がみれば、驚くべき写真。
まあ、僕だけが「誰だこいつは?」と言われるであろう。
でも純粋に、とてもいい雰囲気。温かい写真。
僕の宝の一つとなった。

宴を終え、3人は肩を寄せ合って、爆笑しながら店を後にし、車に乗り込んでいった。



今なお研究を続け、長年に渡り学会を引っ張っている、超プロフェッショナルなレジェンドたちの背中。
すげえかっこよかった。




タイ研究の碩学で世界的人類学者の田辺繁治 名誉教授に初めてお目にかかったのは、もう10年ほど前のことだ。
チェンマイ大学日本研究センターにてご挨拶させていただいた。

学生の頃から、先生の北タイの精霊信仰についての本は何冊か読んできた。
正直いって「本の中の人」という感じだったので、「おー、リアル田辺先生」なんて思ったものである。

先生には、それから大変お世話になってきている。
日本研究センターの仕事も色々とご一緒した。
博士論文提出までの戦略も、一緒に練っていただいた。
原稿にも目を通していただき、有益なコメントをいただいた。
先生がもしチェンマイ大学にいなかったら、論文完成まで至らなかったであろう。

プライベートでも、よく食事に行かせていただいている。
研究に関しては目の奥に並々ならぬ厳しい光をもつが、普段はいつも笑顔で美味しそうにサバを召し上がっている。
「タイの方がうまいんだよな」
そう笑っている。
謙虚で、明るく、僕ら家族のことをいつも気にかけてくださっている。

そんな田辺先生の最終講義・セミナーが先日、チェンマイ大学社会科学部にて行われた。





先生は2026年3月をもってチェンマイ大学をご退官し、日本に本帰国される予定だという。

セミナーには、タイ人の先生が多く集まった。



チェンマイ大学社会科学部のチャヤン(Chayan Vaddhanaphuti)先生、チュラロンコーン大学名誉教授のスリチャイ(Surichai Wun'gaeo)先生が、挨拶やコメントの役を担っていた。
他にもセミナーには、錚々たるメンバーが集まっていた。

皆さんは田辺先生の研究のお話を聞くと共に、かつてお世話になったことや感謝の気持ちを述べた。
自分たちがあるのは田辺先生にいっぱい助けられたからだ、と語っていた。
多くの先生たちが師と仰ぐ田辺先生を囲んで、最終セミナーは温かく終わった。

タイ研究に携わって60年。

こうして多くの人に知と影響を与え、多くの人に感謝される先生。圧巻だ。
僕もチェンマイ大学に来て10年。先生とご一緒できて、研究内容や姿勢について大きな刺激を受けた。
何より先生とのかけがえのないチェンマイ時間をいただけたことが、本当にありがたいことだった。

タイ人の先生方の話を微笑みながら聴いている先生の姿をみて、「こんなふうに年とるの、いいなぁ」と、うらやましく思った。



日本研究センターからも、お礼を込めて花束を送った。
「わざわざ来てくれてありがとう」
先生はそうおっしゃった。
お礼をいうのはこちらの方である。いくら感謝してもしきれないものだ。

今、先生は日本に一時帰国されている。
でもまたすぐに、本帰国準備のためにチェンマイに戻ってこられるとのこと。
その時は、センターメンバーで食事をする予定だ。

さらに、先生と僕ら夫婦とで、ラオス・ルアンパバーンに行く計画もたてている。
今の国際情勢もあるので様子を見ながらにはなるが、うまく実現できればありがたいことだ。
超プロフェッショナルとまわるルアンパバーン。超贅沢。楽しみだ。