学生たちの別れ



チェンマイ大学の新学年の始まりは、8月である。

そして1ヶ月ほどたつと、4年生の30〜40%くらいの学生が日本へ留学に向かう。

東京や京都、大阪といった大都市はもちろん、南は九州から北は青森まで、広い範囲にわたる各大学に、学生が勉強にいくのだ。


期間は1年間が多い。

よって、留学生組の学生が日本からチェンマイに戻ってきたときには、留学に行かなかった学生はすでに卒業している。

留学組と留学しない組が学校生活を共にするのは8月が最後となるわで、3年間一緒に学んできた学生たちの最初に訪れる別れの時なのである。



先日、何人かの留学組の送別会が行われた。

学生たちは19時くらいから飲み始めていたようだが、僕は仕事終わりの22時過ぎに、指定された店に向かった。



到着すると、明らかに若者でごった返した店。爆音が響き渡っている。

そんな店の前に、仕事帰り丸出しの、シャツにネクタイ姿の中年男性。

明らかに、浮いている。

くるりと引き返して、帰ろうかと思ったが、可愛い学生のためである。

意を決して、店に入った。

ネクタイを外したのは、ほんの少しの抵抗である。


いつもの面々が「先生ー、待ってたよー」と、騒いでいた。

最初は照れ臭かったが、まあ、飲み始めた。


酒は1ヶ月ぶり。昔は浴びるほど飲んでいた自分が、嘘のようだ。

ほんの少し飲んだだけで、酔いはじめていた。

学生も、酒を飲んだ。

別れの寂しさを紛らわすように、騒ぎ、踊っていた。


店がもうすぐ閉店になろうかという0時前、1人の学生がかなり酔っ払い、号泣しはじめた。留学に行かない、見送る側の学生だ。


「みんな留学できて、本当におめでとう!本当に・・・」

号泣している。

「でも、でも、寂しいよ〜」

僕も思わずもらい泣きしそうになった。



留学組との別れを悲しんでいたあと、彼女は、今度は僕の方に言葉を向けた。

別に僕は、どこかに行く訳ではないが、彼女は号泣しながら言った。


「先生も、今日は来てくれてありがとう〜。

先生のおかげで、文学が大好きになったよ〜。

先生の授業、面白かったよ〜。

本当な〜、先生。本当な〜。


また、先生と一緒に、

みんなと一緒に、

前みたいに、勉強したいよ〜。

あの時に戻りたいよ〜。

また、みんなと一緒に勉強したいよ〜。


でも、みんな本当に、おめでとう〜」



「酔っ払うとこの子は、こんな感じになって、次の日には覚えていないこともあるんです。でもきっと、本心ですよ。私たちも同じ気持ちです」

別の子が言った。



僕の授業が面白かったと感じてくれたのは、実はこの子たち自身が面白く、積極的な子たちだったからだ。

みんなワイワイ騒ぎながら、活発に意見を出していて、僕自身、爆笑の連続だった。


それでも、彼女の言葉は嬉しかった。

そして、寂しかった。


自分の可愛がった教え子は、毎年、毎年、巣立っていく。

喜びの反面、やっぱり寂しい。



0時過ぎ、店を出た。

号泣した子や、踊りたくった留学生組の男の子は、泥酔で吐き、動けなくなった。

深夜2時過ぎまで、みんなで道端に座って、介抱しつつ、酔いが冷めるのを待った。

チェンマイの夜風は涼しくて、酔い覚ましにちょうどいい。

次の日は朝6時起きで仕事。

それでも、もうちょっと子の学生達とと一緒にいたいなあと思った。

時間が過ぎていくのが、もったいなかった。



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